井上わたるの和光ブログ
和光市選出の埼玉県議会議員。埼玉県政や和光市のことをわかりやすく伝えます。
2022.07.12
※この投稿は連載シリーズになっています。①②③④をご覧下さい。
さて、連載でお伝えしてきた「LGBT条例審査経過」も今回で最終回です。
ここで紹介するのが、
6月定例会の最終日に私が行なった「反対討論」です。
(前段の部分は、①でも掲載していますが
再度掲載します。)
◆動画で見る場合はこちらをご覧ください。
ここまでの①~④で紹介した様々な議論を踏まえて、それでもなお残った課題・疑問について討論の中で、指摘しました。
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議席番号46番 無所属県民会議の井上航です。
議第15号「埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例」に反対の立場で討論を行います。
我が会派も性の多様性は尊重され、さらなる県民の理解増進が図られるべきと考えます。その上で条例化という方法の是非、そして、その内容及び制定後の影響を、慎重かつ丁寧に判断する必要があると訴え続けてまいりました。
こうした我々の考えの通り、本条例は上程前から大きな議論を呼びました。我が会派にも、LGBTQ当事者や多くの女性から意見が寄せられ、賛成もあった一方で、反対や慎重意見が多く寄せられました。また報道などによると提案者が実施した「県民コメント」に対して、総数4747件、うち賛成508件、反対4120件と報じられています。
このように県民全体に関わる条例で多くの意見が寄せられたにも関わらず、提案者は「自民党としての手続きとして行っており、そもそも公開を前提としていない」と答弁し、議会という最も県民に開かれた公の場において政策立案過程の情報を県民に対して明らかにしていません。
仮にこれが提案者の一貫したスタンスならば、その主張にも納得がいったかもしれません。しかしながら、提案者の会派はこれまでの議員提出議案の審議の際には、これらを公開していました。
例えば、令和3年2月定例会 総務県民生活委員会における「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」の審査においては、「県民コメント内容とどう反映させたか。」の問いに対して、「県民コメントは、自由民主党埼玉支部連合会のホームページで実施し、10件の意見をいただいた。エスカレーター管理者からの意見を一部反映させた。」と答弁しています。
また、令和2年2月定例会の福祉保健医療委員会における「埼玉県ケアラー支援条例」の審査においても「県民コメントは約1か月間ホームページにおいて行い、32件の御意見を頂いた。そのうち30件は条例の趣旨に賛同するものであった。意見を参考にして文言削除を行った」のように答弁しています。
こうした事実を踏まえると、提案者にとって、制定に向け都合のいい情報は公開し、都合の悪い情報は公開しない、という姿勢かのように、県民には映りかねません。
冒頭申し上げた通り、本条例は期待をする声もある一方、県民の抱く不安や心配の声に慎重かつ丁寧に応えながら進めるべき内容であり、今回の提案はいささか県民置き去りであったと受け止めざるを得ないと感じております。
さて、しかしながら、提案された以上は審査を進めなければなりません。
去る6月29日、我々に寄せられた本条例の制定を不安視する多くの声を踏まえ、私はこの壇上で合計20項目に及ぶ質疑を行いました。その後の総務県民生活委員会でも更に議論を深めるべく会派として質疑を行いました。
それらを経てなお、我が会派は「時間をかけてより丁寧な議論が必要」と考え、委員会で継続審査を提案しました。
本条例の一番の争点は「性別は自分で決めることが出来る」という〝性自認〟の考え方を取り入れて、且つ「性的指向又は性自認を理由とする不当な差別的取り扱いをしてはならない」としている点です。
提案者はこの点について「生物学的性別を問わずに、主観的な性自認を重視する」と非常に踏み込んだ答弁をしています。
今回の議案審査では、我々は女性の人権への影響を重視し、特によりプライバシーの度合いの高い「女性トイレ」や「女湯」などの事例を優先して取り上げました。しかし例えば、性自認は女性で身体的には男性の方のスポーツ参加枠はどうするのか。埼玉だけ参加を認めるのか。また身近な点で言えば事業者が行う「レディースデイ」も性自認が優先されるか…など、議論を尽くすべき点は他にも多数あり、国会において同趣旨の法案が慎重審議ののちに提出見送りに至った経緯を鑑みれば、埼玉県議会においても、より丁寧に議論を深める必要性があったと考えております。
継続審査が見送りとなった以上、我が会派も現時点における賛否を判断します。我が会派は「県民の不安解消に至る明確な答弁が十分でなく、条例として施行・交付するには県民の理解を得られる状況には至っていない」と考えることから本議案に反対致します。
反対する理由を以下、申し上げます。
総じて言えることは、多くの論点の答弁に「我々の認識と異なる点が含まれていたり、的確さを欠く」と考える点があったことです。
総じて言えることは、多くの論点の答弁に「我々の認識と異なる点が含まれていたり、的確さを欠く」と考える点があったことです。
具体的に3点申し上げます。
1つ目は提案者が「新しい解釈は行っていない。学校でも『性は多様でグラデーションがある』と教えている。条例施行日が公布の日であっても影響はない」と答弁した点です。
確かに、教育委員会発行の資料にもグラデーションであることは書かれています。しかし、一番の肝である「生物学的性別は問わず、性自認が優先する」とはどこにも書いていません。県のホームページにも…です。
この性自認優先の考え方は、本条例で初めて記された「性の新しい解釈」で有ることは多言を要しません。
有識者もこの点を強く指摘しており、「性の定義を急に変えようとすれば、今の医療や統計、社会制度など多くの社会的根幹が崩れかねない」としています。
次に2点目は、大きな論点にもなった「女湯」等へ性自認女性・身体的には男性の方の利用については、「公共浴場等の施設の衛生及び風紀に必要な措置の基準」を示して、立ち入りを禁止することが差別に当たらない、つまり条例違反に当たらないと説明した点です。
しかし、この基準を定める県条例及び別表内で、本条例に関係するみられる記載は
〇浴室及び脱衣室や、サウナ室などは、男女別に設け、外部から及び男女各室相互に見通すことができないようにし、かつ、その出入口を男女別にすること。
〇七歳以上の男女を混浴させないこと。
のみです。
担当課の認識を伺ったところ、ここに書かれた文言は、あくまでこの基準が定められた当時における「男女」であり、昨今LGBTQへの理解は急速に浸透・尊重されては来ているものの、当時の認識は「身体的性別による男女」である・・・とのことでした。
そうした見解を踏まえると、今回提案された条例は、むしろ、この条文内の「男女」の位置づけを変えるものであり、性自認女性・身体的に男性の方が「女性として扱われて女湯に入りたい」とする主張する際、この基準でその主張を抑えることには繋がらない、と解するべきであります。
こうした状況についても、有識者は
『条例は権利の衝突を誘発する、結果的に女性や子どもなど立場の弱い人が不利益を被ることになり、県民に混乱や分断が生じるだろう』と述べています。
この指摘にも真摯に耳を傾けるべきです。
続いて、3点目です。
提案者は答弁で海外の事例も紹介されていました。
「2018年にアメリカのカリフォニア大学ロサンゼルス校で実施された大規模調査においても、本条例と類似の条例施行後に犯罪は増加していない」と述べていた。
これに対して、我々も海外の事例を出したいと思います。
海外では、「生物学的には男性・性自認は女性」が、アメリカでは女性刑務所で他の収監者を妊娠させたという事例が発生したことや、イギリスでは女子スポーツにおいて他の女性選手を圧倒的に上回る成績を連発し、男性器をつけたままシャワー室などを利用し他の女子選手から声があがったことなどを受け、2022年の出来事として、イギリスではジョンソン首相が「トランス女性は女子競技に出るべきではない」と発言し、課題是正に乗り出す姿勢を示している。4年前の、調査ではなく、2022年現在起きている事実であります。
どちらが説得力を持つか、是非、県民の皆様にもご判断いただきたい、と思います。
また、この先に、条例が制定されたとして、執行部に対して、1点言及させていただきます。
県は、本条例の提案や成立の可否を問わず、LGBTQの方への支援を行っておりますが、この先、県の事務事業について、性の多様性の尊重という視点をどのように取り入れるかを検討会などで議論すると伺っております。
「男女」「女性」や「夫婦」という概念のある取り組みを上げていくと、1038事業にも上ると伺っております。この中には、婦人保護施設、つまりDVから逃れるシェルターや、児童相談所での適齢期の男女別室の取り扱い、性犯罪者被害者への支援なども含まれると考えます。
こうした県民の命や安全に関する事項については、条例の成立の有無に関わらず、県民保護の大原則に立っていただきたいと思います。
最後に。
今回の条例の審査に当たり、会派でご意見を伺った性的マイノリティの方が「人権は勝ち取るものではない。時間を掛けて育てるものだ」と仰っていました。仮に条例ができても、性的マイノリティの方の支援が完成されるわけではありません。本条例の議論が、県民の分断ではなく、互いを理解し、さらなる支援の在り方を考える前向きな機会となることを願って、私の討論と致します。
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この討論の後、採決が行われました。
今回は異例のことではありますが、提案者である自民党内から退席者が出ました。
つまり「条例に乗れない」と考える議員が自民党内にも居たことになります。
それでも議会は多数決です。賛成多数で条例は成立しました。
おそらく、採決結果だけを見て、
「無所属県民会議はLGBTRへの理解がない」
「井上は性の多様性を尊重する考えはないじゃないか」
と受け取る方がいるかもしれません。
と受け取る方がいるかもしれません。
ですが、この①~⑤の報告を見ていただければ、我々が
◆LGBTの方たちの権利が尊重されるべきだが、女性の方たちへの配慮・影響について慎重に慎重を重ねて議論しなければならない
◆早急に条例を制定するのではなく、充分な議論が必要である。
と、いかに真剣に条例のことを考えてきたかご理解いただけるかと思います。
最後に。
討論の際に時間がなく、カットした部分を紹介します。
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本会議質疑の中で、「県立高校の男子校・女子校」というあり方についても質問しました。
提案者は「検討すること自体は可能。お茶の水女子大学の事例もある」と答弁しました。この答弁は、若者の性自認について、私のもつ慎重意見とは異なるものでした。
私は、当事者団体の方から「例えば、生まれつきの身体的性別は女性、しかし性自認は男性の生徒が、男子校に行くことについてどう考えるか?」と意見を伺ったことがあります。
その問いに対して、
・共学だと男女差を常に見続けることになる。だからこそ、あえての女子高に行くことで精神的に安定する。
・また、若いときは特に性自認も揺れ動く。中学3年生などに自認を判断させることのほうが、影響が大きい、と仰っていました。
また、お茶の水女子大の事例を私も出して質問しましたが、大学の授業には、基本的に体育の授業はない、プールはない、宿泊を伴う修学旅行もない。全く別の状況と理解すべきと仰っていました。私はこの考えが当事者ならではの意見として、とても重要と考えております。
教育の現場における性的マイノリティの方に対しての支援は、個別に十分になされるべきと考えますが、提案者の認識のもとで、本条例を機に学校の在り方にも話が及ぶことは決して容易に賛同できるものではない、と考えております。
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重ねて申し上げますが、私たち会派は丁寧にLGBTQ当事者から意見を聞き、真剣に条例と、制定後の影響について議論してきました。
重ねて申し上げますが、私たち会派は丁寧にLGBTQ当事者から意見を聞き、真剣に条例と、制定後の影響について議論してきました。
特に、教育や子供達への影響を考えると「条例化」という方法には慎重であるべきと考えた次第です。
以上、私が申し上げたいことを綴らせていただきました。
長々とご覧いただき、ありがとうございました。
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(参考)
下記は閉会後の報道の一部です。
◎LGBT条例が成立 埼玉県議会
◎LGBT条例、各地へ波及なら混乱懸念も 識者「拙速」指摘
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